Contents
ドイツ政府は、ブロックチェーンの利用計画についての概要を示す新戦略を決定した。
メルケル政権によって2019年9月18日(現地時間)に承認されたこの戦略は、デジタルアイデンティティ、証券、企業ファイナンスなど、ブロックチェーン分野におけるドイツ政府の優先事項を設定するもの。この戦略はまた、フェイスブックが主導するリブラ(Libra)のようなステーブルコインによる国家通貨への脅威を容認しないと明言している。
この戦略は、2019年春に始まり、158人の専門家と、合計で6261の回答を寄せた企業担当者を含む、業界との幅広い協議の結果として生まれたもの。このアプローチはオープンソフトウエアと政府を、技術競争における究極の調停者として受け入れている。
アイデンティティ分野での検討
今回の戦略によると、ドイツはデジタルアイデンディのためのブロックチェーンの使用を真剣に検討していく。
ドイツ政府自体が近い将来、ブロックチェーンを基盤としたデジタルアイデンティティのためのパイロットプロジェクトをローンチする予定(だが、具体的なタイムフレームは示されていない)。その狙いは、配偶関係、書類登録、パスポート、IDカードの管理といった用途におけるブロックチェーンのメリットを研究すること。
「パイロットプロジェクトでは、こうしたブロックチェーンを基盤としたデジタルアイデンティティが既存のソリューションに比べて、明らかな付加価値をもたらすものなのか、そして、法的データの保護要件に適合するような形で設計できるのかを検証する」と戦略文書は記した。
協議によると、ドイツ国民は国民の個人情報の保護者として、政府を第一に信頼している。
「さらに、政府はデジタルパーソナルアイデンティティの中心的なまとめ役あるいは規制者として考えられていることも明らかになった。政府は規制条項によって、データ保護とセキュリティを保証する義務を負っている」
企業は長年にわたってブロックチェーン・アイデンティティ・ソリューションに取り組んできている。2019年春にはビットコインを利用した取り組みをマイクロソフト(Microsoft)が発表した。
しかし提案されたソリューションの中には、市場で支配的な役割を果たしているものは今のところ存在していない。そのためドイツ政府はさまざまなシステムの相互運用性をテストし、採用にむけて競わせることを狙っている。
スマートマシン、スマートコントラクト
IoT(モノのインターネット)も将来的に検討が見込まれる分野。ドイツは自律ガジェット向けのデジタル認証と検証の研究提案の募集を計画している。
「特にブロックチェーン技術、eSIM/eUICC、多要素認証、その他のハードウエアやソフトウエア手順の検討が予定されている」
基準や証明の管理のための分散型台帳やスマートコントラクトの利用も、研究が計画されている分野。普通のユーザーにも何が起こっているかが分かるような方法でのテクノロジーの応用が期待されている。
戦略文書には次の通りに記されている。
「技術的な初心者には、スマートコントラクトが実際に技術的に何を実行しているのかを理解することはできない。このため、スマートコントラクトは情報を提供する義務を伴う必要がある」
加えて、戦略文書によると、戦略策定の協議への参加者は、そのようなアプリケーションが何らかの形で公共によってコントロールされ、「公的な組織によって認証される」ことを求めた。
将来のテックソリューションの相互運用性を高めるために、戦略ではオープンソフトウエアの利用が推奨されている。さらに「連邦政府は、ブロックチェーン向けアプリケーションソリューションが、他の(ブロックチェーン)アプリケーションとリンクするために、相互運用可能でオープンなインターフェイスを持つことを確実にすることにコミットする」。
より速い証券
戦略では、分散型台帳技術(DLT)に基づく証券を合法化する計画が改めてスタートする。この計画は以前、ドイツ経済相によって発表され、その際には証券をブロックチェーン上を含め、純粋にデジタルな形で存在させることを可能にすることが明らかにされた。
「仮に今、証券がブロックチェーン上で発行されたとすると、証券取引の実行と決済は(中略)これまでよりも優れたコストパフォーマンスで、より速く実行できるだろう」と、戦略文書は記した。
戦略文書によると、デジタル証券に関する法案は2019年末までに発表の予定。新しい法律は「技術的に中立」で、最初の段階ではデジタル債券のみを扱うべき。それがうまくいけば、ブロックチェーン上でのデジタル株式や投資ファンドが次のステップとして検討される。
政府に初めて承認されたこのような証券はすでにローンチされている。2019年夏、ベルリンに拠点を置くスタートアップのファンダメント(Fundament)は不動産に裏付けられた2億8000万ドル(約300億円)相当のトークン化された債券を発行した。ドイツの金融規制当局「ドイツ連邦金融監督庁(BaFIN)」がこのような商品を認可したのはこれが初めてだった。
ドイツ政府はまた、DLTをコーポレートガバナンスに利用する方法も検討する。想定される使用場面は株式決済、株式の権利、協同組合における会員の権利の行使などだ。
ステーブルコインに厳しく
戦略文書では、規制対象として言及された仮想通貨はなかった。だがドイツは国内およびEUおいて、いかなるステーブルコインも独占的な立場を占めることは望んでいないことが強調された。
戦略文書には次のように記した。
「原則として、EUにはステーブルコインの規制制度が存在する。EUレベル、そして国際レベルにおいて、ドイツ連邦政府はステーブルコインが国家通貨の代替物とならないことを確実なものにすることに取り組んでいく」
政府はまた、「デジタル中央銀行通貨」のあり方についてドイツ中央銀行と連携もしていくと文書は付け加えた。
戦略文書のこの部分は、フェイスブックが主導するリブラプロジェクトに刺激されたようだ。9月1日、ドイツとフランスは共同声明を発表し、リブラがマネーロンダリングやテロリズムへの資金供与を防ぎ、投資家を守ることには確信が持てておらず、さらにリブラは「金融主権」への脅威になると述べた。そのため両国は、EU内でのリブラプロジェクトに反対する計画だ。
全体としては、ブロックチェーン戦略によって、ドイツはイノベーターや投資家に好まれるトップエリアとしての地位を維持することが期待されると戦略文書は記した。
ドイツ議会において新しいブロックチェーンおよび仮想通貨政策の主体な提案者であるトーマス・ハイルマン(Thomas Heilmann)議員は、ドイツがDLTを基盤とするビジネスを行うために快適な場所になることを期待しているとCoinDeskに述べた。
「シリコンバレーから多くの従来のイノベーションが生まれたように、新しく生まれつつあるトークンエコノミーの本拠地はドイツになる」
coindesk JAPANより転用