人工知能(AI)とブロックチェーン技術を使った新たな特許活用エコシステム「IPwe(アイ・ピー・ウィー)」。開発したのは2018年2月からパリを本拠に活動を始めた同名のスタートアップだ。世界の5大特許創出地域への進出を目指し、連携先を開拓している。既に米欧中韓へは進出に踏み出しており、残る日本上陸へ向けて今、水面下で準備を進めている。
創設者のエリック・スパンゲンバーグ最高経営責任者(CEO)は以前、特許訴訟で莫大(ばくだい)な収益を上げていた著名なNPE(特許不実施主体)であるIPNavを創設した人物。米国のNPE規制などで事業環境が変化する中、自らの資金と経験を投入して、次代の知財ビジネスモデル開発に動いていた。
同氏は日本に関して「世界有数の特許創出国で、多くの企業は活用可能な優良な特許資産を保有している。われわれが貢献できる可能性は大きい」と説明する。
特許活用エコシステムとは、特許売買や特許ライセンスなど特許を活用して収益を得るための作業プロセスを1つの情報プラットフォームとしてまとめたものだ。取引対象のエビデンスとなる特許公報などのデータベース、取引対象の価値を評価する分析システム、取引を実行・管理する取引システムなどから構成される。
裏側には高度な情報技術が使われている。スパンゲンバーグ氏が開発し、10年以上に及ぶ機械学習をさせたAIである「Zuse Patent Analytics」の技術に加えて、米IBMの協力によってLinuxが提唱するブロックチェーンのオープンソース「Hyperledger」を導入している。特許の探索、評価、交渉、契約、決済、各国特許庁への所有者名義書き換えなどがウェブ上で、効率的かつ安全に実行できる。パテントプール、特許を質権設定した融資などの付帯サービスも開発されており、順次追加される予定である。
基本的機能の利用は無料だ。IPweはどこで収益を上げるのか。それは実際の特許取引に掛かる手数料だ。IPweを使うことで削減できたコストの一定割合を徴収対象とする方式もある。つまり、利用者がサービスを使って利益を得たときのみ、収益を得る仕組みになっている。
米インテレクチュアルベンチャーズ出身の知財コンサルタントで、IPweの日本でのマーケティングを担当する渡邉聡氏は「世界の特許ライセンス額は年1800億ドル(約19兆4700億円)で、活用されているのは世界の特許のわずか2%。IPweの可能性は特許取引市場の可能性、すなわち、企業の特許資産活用の可能性だといえる」と語った。(知財情報&戦略システム 中岡浩)
SankeiBizより転用