「セキュリティ特化型」のスマホとは
ところが、これほどスマホが普及し、しかもかなり危険になっているのに、スマホに「セキュリティソフトを入れています」という話はあまり聞かない。PCであれば、入れるのが当たり前になっているにもかかわらず、だ。しかもこれから5Gが世界各地で導入され、生活の全てがIoT(モノのインターネット)などでつながる社会がくる。そうなれば、今以上に生活の全てがスマホなどに支配されることになるだろう。
サムスンは、そこに目をつけ、セキュリティを強化したスマホを発売するというのである。ちなみに韓国は世界で最もスマホの普及率が高く、米ピュー研究所の調査では、その普及率は95%にもなるという(19年2月)。2位はイスラエルで、3位はオランダ、米国は6位で81%だ。それほど普及しているからこそ、技術開発も進み、どんどんユーザーの選択肢が増えていっている。
ブループラネットワークとサムスン傘下のSECUIが手を組んで開発しているスマホの名は、「TRUSTICA Mobile-Galaxy(トラスティカ・モバイル・ギャラクシー)」だ。米政府機関が使っていたサイバーセキュリティソフトを一般向けに販売しているブループラネットワークスがSECUIと提携し、セキュリティにフォーカスしたスマホを提供することになる。
トラスティカ・モバイル・ギャラクシーは、2020年2月、まず法人向けに販売をスタートするという。
このスマホ、何が他と違うのか。音声通話やファイル、映像などの暗号伝送を盗聴・傍受から守るソフトウェア「TRUSTICA Mobile」をプリインストールしている。それでも万が一、第三者にデータ漏えいするようなことが起きたとしても、漏えいしたデータの内容を確認できない仕様になっている。
セキュリティに特化したスマホといえば、仮想通貨スマホを18年末に発売したスイス企業シリンラボが有名だ。筆者も以前、イスラエルにある同社の研究拠点を訪れたことがある。シリンラボは、仮想通貨用のウォレットを内蔵したスマホを発売しており、仮想通貨をサイバー攻撃から守るためにかなり頑丈なセキュリティを施していた。ただそれも仮想通貨に特化しており、あまり一般向けではなかった。そう考えると、トラスティカ・モバイル・ギャラクシーは、これまであまりなかったセキュリティ特化型スマホということになる。
自動運転や遠隔治療まで対応
ブループラネットワークスは、もともと「Appguard(アップガード)」という名のサイバーセキュリティソフトを提供していることで知られる日本企業だ。このソフトは、米国政府機関が使用していたサイバーセキュリティソフトで、現在は同社が販売している。同社はさらに、米情報機関の幹部などを取締役に招聘(しょうへい)し、世界水準でサイバー空間の安全性向上を目指している。
アップガードも独特のサイバーセキュリティソフトだ。マルウェアを検知する従来型のセキュリティソフトとは違い、システムに害を与えるような「動作」を察知して、未然に阻止することでシステムの安全性を確保する。
つまり、一般的なソフトのように、世の中にあるウイルスなどを検知して、同じものがPCに入っていないかを調べるのではなく、PCにインストールしているアプリケーションが、ウイルスなどによって不正な動きをしないかを監視する。そのため、サイバーの世界で最も危険だといわれる、世の中にまだ知られていないマルウェア(ゼロデイと呼ばれている)にも対応できる。ソフト自体は軽いし、世界で1日100万個以上も「発生」しているマルウェアのリストをいちいち同期する必要もない。
そんなブループラネットワークスが開発するトラスティカ・モバイル・ギャラクシーは、安全なデータやコミュニケーションを提供するだけでなく、5Gなどが普及していく中で、自動運転や遠隔治療まで広範囲に使えるよう想定している。
同社の関係者によれば、このセキュリティソフトは過去に一度も破られたことがないという。その技術力がスマホに注がれるのだから、かなりの安全性が期待できそうだ。特に企業など、外部に漏れては困る情報を扱う人たちは、この手のスマホの導入を検討したほうがいいかもしれない。
もっとも、できれば個人でも利用できるバージョンもぜひ販売してもらいたいものだが。