通貨建資産に対する法規制は改めて整備が必要=井垣弁護士
Facebook Developer Circlesは9月5日、Facebook(フェイスブック)の仮想通貨Libra(リブラ)に関する情報交換会リブラミートアップを開催した。会場は東京都内のコワーキングスペースBINARYSTAR。同会は、今回を第1回目として、9月以降隔月で開催予定となっている。
第1回目のテーマは「リブラのビジネス、産業、国家への意味合い」とされ、ビジネス・法律・技術の3つの視点から、企業がブロックチェーンを活用した新規事業創出、既存事業への導入時におけるポイントを解説した。
本稿ではBINARYSTAR・インキュベーションマネージャーの井垣孝之弁護士が解説したリブラの法的解釈をまとめる。井垣氏は弁護士であると同時に、応用情報技術者の国家資格も持っており、テック企業の法務やブロックチェーン導入コンサルティング、ソリューション提案営業を扱っているという。
リブラは仮想通貨なのか
国内でのリブラの扱いに関しては、リブラ自体が仮想通貨に該当するか否かが重要な論点となる(参考記事1、参考記事2)。1号仮想通貨の条件は、以下の4点すべてを満たすこと。このうち、リブラは上から3つの条件を明らかに満たす。つまり、リブラの仮想通貨該当性は、「通貨建資産に該当しないこと」が条件となる。
- 代価弁済のために不特定多数に対して使用可能
- 不特定の者を相手方として売買できる財産的価値
- 電子的記録であること
- 通貨建資産でないこと
通貨建資産に該当するか否か、結論として「不透明」だと井垣弁護士はいう。まず、通貨建資産に関する規制が整備されていないことが理由の1つだ。通貨建資産は、預貯金やSuicaなどの電子マネーに代表され、国債や企業債券も含む。簡単に言うと、日本円で表記され、日本円のように支払いに使うことができ、日本円で払い戻しができるものが該当する。だが、通貨バスケットにより価値が変動するリブラのようなものは、現状定義されていない。
「これまでオンライン上で通貨建資産を送るということはなかった。昨今検討は進められているが、依然として法制は整っていない。そのため、リブラが通貨建資産に該当するか否かを検討すると、リブラ側の設計次第でどちらに該当させることも可能と言える。単位は円で表示されているが、その実、価値が変動することもある。それは新しい概念なので、これまでの規制にない。通貨建資産に対して、明確な法規制の整備は急務だ。」(井垣弁護士)
仮に通貨建資産に該当する場合、許可無くサービスを始めると、預り金を無許可で実施したとして出資法違反に問われることとなる。通貨建資産の取扱いには、例外的に認められる預り金のライセンスが必要となる。例えば銀行業や資金移動業、仮想通貨交換業者が持つライセンスが該当し、弁護士も相談費用の一時預かりという名目で許可されているという。
なお、仮想通貨、通貨建資産のほかに前払式支払い手段という可能性も考えられる。だが、前払式支払い手段は送金ができない。このため、「リブラを前払式支払い手段として登録することは考えにくい」(井垣氏)とした。
さらに井垣氏は、リブラが通貨建資産に該当する場合も国内での展開が不可能ではないことを説明した。通貨建資産のリブラを国内で取り扱う場合、現状は銀行業のライセンスがあれば法的には問題がないのである。つまり、フェイスブックが日本の銀行を買収するという手段を取れば、法的な障壁はないも同然になる。
「リブラが仮想通貨に該当しない場合、フェイスブックが国内の銀行を買収してリブラをやれば事業は可能だ。その場合、銀行を買収して、周辺の銀行業もろとも再編するという最高にロックな展開になる」(井垣氏)
リブラが国内で普及するとどうなるのか
リブラが国内で普及した場合、大きく影響を受けるのは銀行業や既存の電子マネーだ。現在、厚生労働省が労働基準法の通貨払いの原則に例外規定をつくる動きを見せており、2020年には日本円以外の給与払いが認められる可能性が高いという。給与がリブラをはじめとした仮想通貨で支払われる場合、銀行の給与口座を介さず賃金の分配が行われることとなり、銀行業は大きく影響を受ける。
また、残高の管理や業者間での精算も必要なくなる。日本円を一度電子マネーに交換して支払いに利用するというプロセスが必要なくなるため、既存の電子マネーも利用機会が減るだろう。
井垣氏は最後に、リブラの出現によって日本企業が直面する問題について警鐘を鳴らし、講演のまとめとした。
「リブラの運営主体となるリブラ協会には29の企業が参画しているわけだが、概算すると、これらの企業の合計売上は11兆円にも上る。諸外国でリブラが使えるようになったと仮定して、これらの企業が日本のマーケットを取りに来たとき、果たして日本企業は対抗できるのか、ということを考える必要がある。日本企業の危機意識はまだ低い。今こそ対策を考え、行動するべきだ」(井垣氏)
仮想通貨Watchより転用