8月26日、ものづくりとテクノロジーにかかわる最先端ビジネスカンファレンスイベント「IoT H/W BIZ DAY 2019 by ASCII STARTUP」が東京・御茶ノ水ソラシティカンファレンスセンターにて開催された。会場では、展示に加えてカンファレンスセッションが開催されたが、今回はその中のセッションC「仮想通貨だけではない IoT×ブロックチェーンのビジネス利用」の様子を紹介する。
仮想通貨という切り口で話題に上がることが多いブロックチェーンだが、その技術が実際のビジネスや生活のどのような影響を及ぼすのかはなかなか見えてこない。そこで、ハードウェアや不動産、水産業などの中から出てきた事例を共有しながら、IoTにとどまらないブロックチェーンのビジネス利用について探るというお題だ。
モデレーターはアスキースタートアップのガチ鈴木氏が務め、tsam代表取締役社長の池森裕毅氏、techtec CEOの田上智裕氏、合同会社 DMM.com CTO室 発明家 VR研究室 xRエンジニアの野秋拓也氏、イタンジ 代表取締役の野口真平氏の4人が登壇した。
「現状、ブロックチェーンといえば仮想通貨に目が行ってしまいますが、それ以外の分野でも活用されているということを理解し、皆さんのビジネスとの距離を知っていただくようなセッションです」とガチ鈴木氏の挨拶からスタートした。
まずは自己紹介から。1社目はtsam代表取締役社長の池森裕毅氏。
「大学を中退して起業してますので、起業家歴は16年目になります。2社をイグジットして、今年に3社目となるtsamを設立しました。スタートアップの支援を行っていて、今回お話しするのは、顧問先の株式会社Saltという会社です。Saltは漁業×スタートアップで、フィッシュテック、広義のマリンテックと言えます。漁業関係者が集る業種コミュニティを運営しており、漁業に関したオープンイノベーションプラットフォームの「FOIP」を運営しています」(池森氏)
「私はR&Dをやっているエンジニアです。これまでは、DMMの画像配信をするサーバーや社内の認証認可基盤、IoTとブロックチェーンの試作などを手がけていて、最近はバーチャルユーチューバーを行なうシステムを作っています。IoTとブロックチェーンで試作したのは、スマートコントラクトで購入できる自販機やハードウェアウォレット、民泊向けのスマートロックなどです。町中にあるたくさんのセンサーデバイスがスマートコントラクトでDMMのサーバーを借りて、ビジネスをスケールさせるモックを作りました」(野秋氏)
「イタンジは2012年に創業して、不動産領域でシステムを提供しています。昨年10月GAテクノロジーズに約30億円で売却をしまして、子会社となりました。GAテクノロジーズグループでは、不動産テック(不動産領域におけるテクノロジーの活用)を推進していくため、AIとブロックチェーンの研究を20人くらいの組織で行なっています。
イタンジは賃貸不動産領域で部屋探しから内見、申し込み、契約までをテクノロジー化し、なめらかな部屋探し体験の実現を目指しています。そのなかで、不動産会社の担当と一緒ではなく単独で内見をできるようにするためスマートロックを活用した「セルフ内見」の普及に力を入れています。スマートロックは2013~4年から不動産業界から注目されていたのですが、一向に普及しないので、もうこれは3~4万円で売っていてもしょうがないということで、ゼロ円で不動産管理会社に配っています。スマートキーを普及させれば、賃貸の領域をスマート化できるという見込みがあり、セルフ内見型のサービスを始めようとしております」(野口氏)
「techtecでは、ブロックチェーンの学習サービス「PoL」(ポル)を提供しています。学習するほど資産が貯まる、というキャッチコピーでやっています。ブロックチェーンの特徴として、ビットコインやリップルと言った独自の通貨を発行できます。それと同じように「PoL」という通貨を発行し、学習するほどもらうことができます。労働だけが価値の対価じゃないよね、ということです。
ほかにもリサーチ事業をやっていて、経産省とリクルートと3社で、学位の詐称をブロックチェーンで防止できないかという調査事業を今年の3月までやっていました」(田上氏)
一言でいうとブロックチェーンは「価値のインターネット」
続いて、田上氏がブロックチェーンの解説と現状を説明してくれた。無理矢理一言でまとめると、「ブロックチェーンは価値のインターネット」だと田上氏。既存のあらゆるウェブのシステムから、中央集権的な仲介者をすべてはじいた状態で本質的な価値を可視化できるよ、というのがブロックチェーンだという。
ブロックチェーンは1回データを書き込むと、なかなか改ざんができないという特徴がある。その仕組みを使うことで、詐称されると本質的な価値がなくなってしまう学位という情報の価値を蘇らせられるのだという。
2019年5月31日に資金決済法が改正されて、正式に仮想通貨の名称が暗号資産に変わった。暗号資産とは、ブロックチェーンによってお金の本質的な価値を、可視化したもの。従来は、銀行を介してしか送金できなかったが、ブロックチェーンを使った独自の通貨を使うことによって、手数料が0.01円とかになってくると、マイクロペイメントができるようになる。
たとえば、カフェで働く店員の接客態度などがブロックチェーンによって可視化されていくと、一律の時給が1500円だとしても、この人は態度いいので10円送ろう、といったことが可能になる。
「暗号資産はブロックチェーンの一つの活用事例に過ぎないということです。PCやスマホではOSの上にアプリがありますが、ブロックチェーンがこのOSの役割を果たします。その上に乗るものも無限に出てくると思います。その1つが暗号資産で、必ずしもブロックチェーンの活用事例は仮想通貨だけとは限りません。その上で期待されているのが、IoTの分野です」(田上氏)