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ブロックチェーンが、すべてのビジネスへの万能薬と期待された時代は終わりました。しかし以前のような誇大広告は消えたものの、企業系ブロックチェーンのプロジェクトは、依然として静かに活動の場を拡げています。
不安定な船出の後に、やっと立ち上がった企業系ブロックチェーン
2018年1月に、IBMとデンマークの世界的海運企業であるマースク(Maersk)とが合同で、トレード・レンズ(Trade Lens)と名付けられた企業向けのブロックチェーンシステムを立ち上げました。このシステムは、海運会社の積荷情報や目録、さらに送り荷の追跡情報などをブロックチェーン上に記録することで、20%以上の大幅なコストカットを目指して作られたサプライチェーンプラットフォームです。
しかし、「巨大企業とブロックチェーン技術に支えられた、開放的で中立的なプラットフォーム」という触れこみで動き出しましたが、パートナー探しで一度つまずきました。現在はようやく軌道に乗ってきたものの、未だパートナーの問題に苦しんでいます。何が理由になっているのでしょうか?
理由の一つとして、最初にIBMとマースクが描いたブロックチェーンのイメージが、現実と乖離していたことです。そしてもう一つは、参加するパートナーの信用度に対するハードルが高過ぎたことが挙げられます。
LTOネットワーク(LTO Network)最高経営責任者(CEO)であるリック・シュミッツ(Rick Schmitz)氏は、「ブロックチェーン統合の真の可能性と価値は、世界規模で活用できる場を作り出せるかどうかにかかっている」とビットコインドットコム(Bitcoin.com)で述べています。IBMとマースクの取り組みは、それに応えられていなかったのでしょうか。
主要企業も企業系ブロックチェーンにエントリー
ほとんどは実績を残すことができなかったものが多いですが、さまざまなテストプロジェクトが生まれた中で、ブロックチェーンに参入するビジネスは大幅に増え、幅広いプロジェクトに利用されるようになりました。また以前に比べると、ビジネスでもごく普通にブロックチェーンが受け入れられるようになっています。
9月11日にはマスターカード(Mastercard)が、コルダ(Corda)という金融向け分散型元帳プラットフォームを開発する、アメリカのR3社の協力を得て、ブロックチェーンベースの支払いシステムを構築中であることが明らかになりました。
しかし、なぜそこにブロックチェーンが必要なのかは、実際のところ明らかにされてはいません。マスターカードによるリリースの中でも、担当者は「ブロックチェーン」という言葉を発することはありませんでした。ブロックチェーン技術がどのような仕組みで組み込まれ、どのように使われているのかという話をしたところで、一般層には難しすぎる内容になってしまうというのが現状のためでしょう。
信頼回復に対する取り組み
企業系ブロックチェーンの軌跡を見てみると、その中での成功と失敗から学び取れることがいくつかあります。IBMとマースクの取り組みは、その両方が見受けられる良い例です。
まず、どうして彼らに協力するパートナーが現れなかったのか。それはIBMとマースクがブロックチェーンに関する知的財産権を、すべて握ってしまっていたからです。その後、IBMによるデータ保護の向上とガバナンス体制の確立、API公開などの努力の結果、プロジェクトへの協力に前向きな企業が増え、今までの「冒険的な参加」から「友好的な参加」へと変わったのです。
これまでのブロックチェーンは、サプライチェーン企業に対して、まったく公平な立場を求めてきました。しかし海運会社・製造会社・サプライヤーなど、時に互いの利益が衝突する関係にあります。本当に必要になるのは、すべての利害関係者にとって、ブロックチェーンを同じレベルで活用できる場を作り出すことでした。それに気づいたIBMは、マースクを開発プロジェクトのトップに置くことを選んだのです。
それまでIBMは、参加条件にに自社の独自システム導入を掲げてきました。つまり、参加希望の企業には大幅なコストがかかる上、Trade LensはIBMの中央集権的なブロックチェーンプラットフォームになっていたのです。IBMとマースクは、その失敗に気づき、信頼回復への試みを続けてきました。その結果現在15以上の運輸会社と、90以上の企業が彼らのブロックチェーンを導入しています。
さらに誕生する企業系ブロックチェーン
これまでのところ、情報記録分野における企業系ブロックチェーンのほとんどは、IBMのハイパーレッジャー(Hyperledger)か、R3のCordaをベースにしています。ところが9月16日には、ヘデラ・ハッシュグラフ(Hedera Hashgraph)という、企業系ブロックチェーンシステムがリリース予定です。
これには航空会社のボーイング(Boeing)、通信事業のドイツテレコム(Deutsche Telekom)、そしてIBMといった巨大企業も関わっており、処理能力や信用度が未知数であるにもかかわらず、今後多くの参加企業が名乗りをあげそうです。
これまでの企業系ブロックチェーンの動きから言えることは、ブロックチェーンは技術力の高さはもちろん、ビットコインから続く精神に基づいた分散性がなければ、意味をなさないということです。中央集権型ブロックチェーンは、開発者の利益のために管理・運用されるデータベース以外の何物でもなくなってしまうのです。
Coin Choiceより転用