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前編では、Deloitteトーマツが先日2019年8月に発表した「Deloitte’s 2019 Global Blockchain Survey – Blockchain gets down to business -」の調査概要や2018年→2019年と経年比較したブロックチェーンへの取り組み意識の変化についてまとめました。
今回の後編では、「ブロックチェーン技術への投資拡大に向けた障壁」「世界各国の取り組み意識比較」「まとめ」という形で取り上げていきたいと思います。
ブロックチェーン技術への投資拡大に向けた障壁
前編で取り上げました通り、前年の調査結果より明らかにブロックチェーン技術の戦略的プライオリティは上がっており、技術応用に向けた取り組みが本格化していることが見て取れました。
では、今後それに注力していく際にどんなことが障壁になっていると認識されているのでしょうか?
本レポート結果の一部抜粋になりますが、ほとんどの項目でブロックチェーン技術への投資拡大に向けた障壁認識は低下しており、ビジネス応用に向けた成熟度が増してきていると捉えられます。
具体的には、「導入障壁(現行システムからの交換或いは統合)」は昨年37%から30%(-7pt)とダウンしており、「規制面の問題」に関しても39%→30%(-9pt)、「潜在的なセキュリティ脅威」も35%→29%(-6pt)となっており、ブロックチェーンそのものの技術研究が進んだことで各課題解決の方向性を見い出し始めていると推測されるのではないでしょうか。
一方、「組織内のスキル/知識の欠如」については28%と昨年調査と変化がなかった点についてもABCD WORLD.netでは着目したいと考えています。
前編の「調査概要の整理」にまとめた通り、今回の回答者は「シニア・エグゼクティブ」かつ「その組織の中でもブロックチェーンに精通した方」が対象者となっています。そのため、彼らのような視点から見れば、ブロックチェーン技術の導入プロジェクトに関わる組織メンバー間でのスキル不足や知識のバラツキが以前として変わらない課題として捉えられていると言うことができるでしょう。
日本国内でも課題として取り上げられていますが、ブロックチェーン技術の応用はまだ初期段階であり、この技術に精通した開発者の人材不足が問題となっています。今世界中の大学でブロックチェーンを学問として捉え、米マサチューセッツ工科大学(MIT)では2015年4月にブロックチェーンの研究機関として”Digital Currency Initiative(DCI)”を立ち上げ、スタンフォード大学も2018年6月に “The Stanford Center for Blockchain Research”を開設しましたが、彼らがビジネスの現場でその知識や能力を発揮するまで、まだ時間がかかるでしょう。
実際に、アメリカやイギリスにオフィスを構える労働環境の市場データを提供する Burning Glass Technologies社は、2017年の調査にて2016年→2017年でブロックチェーン関連のスキルを求めている求人が2倍以上に増加したことを発表しています。

世界各国の取り組み姿勢を比較
前編と合わせてここまで本調査の全体集計(Grand Total)ベースでの傾向をご紹介してきましたが、2019年版調査は世界12カ国で実施されております。そこで、ブロックチェーン技術への取り組み姿勢について国際比較している内容がありましたので取り上げたいと思います。
まず、上記赤ハイライトの中国について見ていきましょう。「BC技術が主流となる(47%)」「有力なビジネスケースがある(37%)」という内容について 他国と比較して低いのが見て取れますが、「戦略プライオリティのTOP5に入る(73%)」は非常に高い点が特徴です。つまり、今中国の現状はブロックチェーン技術の重要度が高いことは広く認知されていますが、まだ実態が追いついていない、ということが推察されるでしょう。この背景として、中国では暗号通貨が原則禁止されている側面も影響していると思われます。
中国がブロックチェーン技術に対して本格的に動き出した象徴として直近の2019年10月に中国のトップ習近平国家主席は、北京で開催された中央委員会政治局の研究会の中で、「ブロックチェーン技術は中国国内で幅広い適用が可能であり、金融事業から大量輸送や貧困緩和に至るまでのテーマをリストアップしている」と述べ、続いて「主たる方向性を明確にし投資を増やし、多くの主要な核心的技術に焦点を当て、ブロックチェーン技術と産業革新の発展を加速させなければならない」と話したといいます。本レポートでは「ブロックチェーンを生産性向上のためのツールではんく、戦略的武器として使う経営者によって、より多くのプロジェクトが推進されています」と述べられています。
次に、東南アジアにおける代表的なブロックチェーン先進国と言われるシンガポールについてです。同国は仮想通貨取引所の数や取引高、新しい資金調達手段として昨今注目を浴びているInitial Coin Offering(ICO)の件数で世界的にも上位に位置しています。そのICO市場は若干熱が冷めてきている感がありますが、格付けプラットフォーム「ICObench」の調査によれば、2019年8月における資金調達額でシンガポールが全体トップで53%も占めているようです。
また、RippleやLitecoinといった大手仮想通貨プロジェクトもシンガポールに拠点を設置していたり、様々な大型ブロックチェーンプロジェクトが本部を構えていると言われています。今回の調査結果も各設問に対して平均的に高い水準で回答しており、ブロックチェーン技術への前向きな姿勢が見て取れます。
最後にアメリカについてです。本レポート内では触れられていませんが、トランプ大統領の首席補佐官代行として仮想通貨やブロックチェーン支持者であるMick Mulvaney氏が昨年2018年12月に指名されたことや、Commodity Futures Trading Commision(CFTC:商品先物取引委員会)議長のHeath Tarbert氏が先日2019年11月に「仮想通貨・ブロックチェーン技術領域においても、アメリカが主導権を握り世界を先導していくべきだ」と積極的な見解を発表したことなど、この技術に対して政府や州を中心に取り組んで行く姿勢を見せており、その背景の結果が本レポートでも出ているのではないかと推察されます。
まとめ

「ブロックチェーン技術 様々なビジネスで実用化へ」と題してお送りした前編と後編、いかがだったでしょうか?
2010年代が終わりを告げ、2020年代を迎えるまであと1ヶ月ちょっととなりました。
2010年代は仮想通貨(暗号通貨)が誕生し注目されましたが、後半はその基盤技術=ブロックチェーンの研究やビジネス応用へ確実に前進している様が本レポートから読み取れたと思います。次の2020年代にはこのブロックチェーン技術を活用した新たな情報社会が到来してくるでしょう。
最後に本レポートに掲載された結論の一部分を引用しまして、本連載を終わりたいと思います。
「もちろん、未来を正確に予言できる人などいません。ですから我々も、ブロックチェーンがより広く導入される正確な時期を予言するのは差し控えておきましょう。それでも、2019年以降のブロックチェーンの軌道は明らかに上を目指しています。ブロックチェーンが進む道は、破壊的なテクノロジーの特徴である成長と潜在性の物語となることでしょう。」
*本記事はDeloitteトーマツの“Global BlockChain Reseach”を元にABCD WORLD.netがオリジナルで作成したものです。