前回、プラットフォームビジネスとしてのP2P電力取引事例について紹介したが、今回は電力ビジネスとして成り立たせる上で直面するブロックチェーン(以下、BC)技術応用に伴う特有の課題と、ピアツーピア(P2P)電力取引を実現させるための仕組み面・法制度面での論点について紹介する。要約すると、各種課題はあるものの、電力デジタル技術の革新や分散型エネルギー活用の進展は、BC技術を活用したP2P電力取引に親和性があり、BC電力ビジネスの未来は明るいと考えられる。
技術面では拡張性や相互運用性、仮想通貨の実態化が課題
BC技術は様々な利点はあるものの、電力ビジネスに落とし込む場合に留意すべきBC特有の事項として次の3点が挙げられる。
1つ目は、スケーラビリティー(拡張性)の課題である。小規模の実証時点では問題なかったとしても、顧客数が増加し取引量が増大した際に、BC活用による処理速度に問題がないかという観点である。これは、そもそもBCの取引信頼性が主にコンセンサスアルゴリズム(合意形成手法)に依存しているため、取引量が多いと必然的に取引が適正かどうかの処理にそれだけ時間を要することになるためである。
2つ目は、インターオペラビリティー(相互運用性)の課題である。一口にBCと言っても、各種方式が存在し、ビジネス展開を考えると異なる方式のBC間をセキュアにつなげる必要がある。
3つ目は、価値交換の課題である。通常、BC技術を応用した取引の対価の支払いには仮想通貨(暗号資産)が利用されるが、仮想通貨そのものを価値のある実態、例えば法定通貨に最終的に交換することができるような「出口」が用意されているかどうかである。前二者は、BCの技術的な課題として、今も精力的に解決策が検討されており、最後の課題も金融面での課題でもあるが、前二者と合わせたパッケージでの解決策として、様々な工夫が検討されている状況である。
電事法、計量法などで5つの課題。エネ庁も解決へ向け取り組み
次に、BC技術を活用した電力ビジネス、特にP2P電力取引を展開する際における、仕組みや法制度面で留意すべき事項について述べる。
制度・運用面での課題は、図1に示すように、大きく5点ある。
1つ目は、極小規模の電気事業者を法的にどう整理するかという課題である。電気事業者ではない個人のプロシューマーは、現行の電気事業法では電気の供給主体にはなれない。2つ目は、小規模な電気を低圧から低圧へ託送する際の託送料金水準が適正かどうかという課題である。3つ目は、コンシューマー側において、P2P電力供給と小売電力双方から電力供給を受けるという、低圧部分供給が実行できるのかという仕組み面での課題である。
以上の3つの課題が全て解決されないと、電力系統を使ったP2P電力取引ビジネスは実現できそうにないのだが、さらに4つ目として、電気自動車(EV)や、デマンドレスポンス(DR)などで機器単体の使用量を取引に使う際、計量法に準拠しなければならないという課題がある。最後に5つ目として、P2P電力取引プラットフォーム事業単体を行う際に、バランシンググループの重複所属が実行できるかという仕組み面での課題がある。
これら5つの課題が全て解決することで、P2P電力取引などの将来が開けるが、既に2019年5月10日に開催された経済産業省の「次世代技術を活用した新たな電力プラットフォームの在り方研究会」で、資源エネルギー庁事務局から提示された資料「配電分野の高度化に資する新たな事業類型について」において、P2P電力取引の類型と論点となり得る主な制度・運用見直し項目が提示された(図2)。これは、P2P電力取引を実現するための現時点での法制度・運用面での論点を、国として明確に示したことを意味しており、今後の精力的な検討を通じて論点整理から法改正につながっていくことが期待される。
以上のことから、新たな電力プラットフォームとしてBC技術を活用したP2P電力取引が実現される――このような未来が、我が国にもそう遠くない時期にやってくると予想される。
執筆者:石田 文章氏
関西電力技術研究所エネルギー利用技術研究室主幹
1986年東大電気卒、関西電力入社。研究開発室研究企画グループマネジャー、秘書室マネジャー、新エネルギー・産業技術総合開発機構出向、地域エネルギー本部担当部長を経て2017年6月から現職。現在は家庭用エネルギー分野の研究開発に携わる。
電気新聞より転用