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前編では、各国が2015年前後から本格的に取り組み始めている法定デジタル通貨の発行背景や世界動向をピックアップしました。
スウェーデンのように完全キャッシュレス社会の実現を目的にした中での一環として位置づけしている国もあれば、カナダのように現行の銀行システムの改善や仮想通貨対抗として発行することが目的だったり、さらには中国のように米ドルが覇権を握っている現行通貨制度に一石を投じるためにどの国よりも早く法定デジタル通貨を発行することを目的としている国もあります。
この後編では、そもそも通貨をデジタル化することによるメリットやデメリットについて考察していきたいと思います。
法定デジタル通貨のメリット
通貨の製造・管理などのコスト低減
これは主に中央銀行(日本でいえば日銀)が抱えるコストです。
現状日本では紙幣は年間約30億枚刷られており、500億円程度の製造コストがかかっており、発行後においても約450億円も管理コストとしてかかっていると言われています。当然この発行によって日本銀行は通貨発行益(シニョレッジ)として利益が生まれていますが、通貨デジタル化によりこういったコストが不要になることはメリットと考えられます。
また、管理面を大きな括りで捉えると通貨の偽造対策も入ってきます。日本は高度な技術によって大きな問題となっていませんが、偽造が多い国においては鑑定機を設置によるコストがかかっているのが実態のようです。
金融政策による影響力の維持
中央銀行の主な役割の1つとして、「市場に流れているお金の『量』を調整する」というものがあり、これを金融政策といいます。景気が好調(インフレ)の場合は「市場に流れているお金の量を減らし」、景気が悪化(デフレ)の場合は「市場に流れているお金の量を増やす」というのが基本的な金融政策となります。
これは中央銀行が民間銀行(日本で言えば三菱UFJやみずほなど)を通じてコントロールするものですが、近年はビットコインを始めとする仮想通貨の台頭など、中央銀行が管轄していない通貨を決済手段としても利用できるシーンが増えてきており、従来のスタンダードな金融政策の影響力が低下しているという指摘があります。ただ、中央銀行主導の法定デジタル通貨を発行しそれが普及すれば、低下している金融政策の有効性を維持できるのではないか、と期待されているという訳です。
マネーロンダリングや脱税などの犯罪行為の防止
マネーロンダリング (略称:マネロン) とは、麻薬取引など犯罪行為で得た資金を転々と移動させ、出所がわからないようにし、正当な手段で得た資金と見せかける犯罪行為ですが、法定デジタル通貨の発行及び普及が進めば、そういった問題が解決される可能性が高まると言われています。
というのも、そもそも現金決済の特徴として、とある商品を購入する際に「どこの」「誰が」「どんなお金で」購入しているのかを把握することは困難で匿名性が高い価値交換手段と言われています。そういった側面からマネロンや脱税などの犯罪行為にも利用されやすいのですが、法定デジタル通貨が普及しそれが決済手段としても主流になっていけば、当然ながらその運営は国の公的部門が担って取引情報を管理しており、すべての取引情報が捕捉されるようになるため、銀行券による犯罪防止施策としての有効性が期待されているのです。
例えば、中国人民銀行は2016年1月に法定デジタル通貨を発行する構想を明らかにしましたが、その目的の一つとして「脱税の防止」を挙げており、敢えて匿名性が低い通貨として作り出すことを狙いとしていると推察されます。
その他にも、「取引が迅速に行われるようになる」、「現金を引き出す手間が不要になる」などありますが、法定デジタル通貨を導入することによるメリットは前述の通り決して少なくないと考えられます。
一方、デメリットもあると言われており、以下に紹介したいと思います。
法定デジタル通貨のデメリット
デジタルに不慣れな高齢者のフォロー体制
法定デジタル通貨が導入された場合、一気に180度切り替えるような運用をする可能性は低いと思われますが、それでもやはりPC・モバイルなどのデジタル機器に不慣れな層(高齢者など)は一定数いると想定され、そういった方々のためにも銀行券(これまでの通貨や紙幣)が無くなることはないと想定されます。
具体的な例でいうと、キャッシュレス社会の先進国であるスウェーデンのキャッシュレス率は95%を超えており、多くの飲食店で現金払いができなかったり、地方にはATMすらなかったりします。そんなスウェーデンでも2016年に約14万人の高齢者が現金使用の保護を政府に訴える運動を起こした経緯があり、法定デジタル通貨も同じようにそういった層へのフォロー体制を考慮した運用設計が必要だと考えられています。
インターネットテクノロジーへの素早い対応力
通貨がデジタル化され普及率が高くなれば、当然不正アクセスされて盗まれてしまうリスク(いわゆるハッキング)が高まると想定されます。
2018年1月に仮想通貨取引所であるコインチェック社で取り扱っている仮想通貨NEM(ネム)が、不正送信された検知時のレートで約580億円が流出した事件はまだ記憶に新しいところだと思いますが、こういったハッキング技術も日々進歩しており、それに対応した高度なセキュリティシステムの構築も必要です。
また、現在普及しているコンピューターシステムより遥かに計算能力が高いと言われている次世代の量子コンピューターが開発される日もそう遠くない未来で実現されると見られており、今後想定される最新技術の大きな進歩への対応も早い段階から考慮し、セキュリティ対策を講じていかなければならないと考えられています。
まとめ

今回ABCD WORLD.netでは、Facebook社のLibra構想に端を発し各国がその議論を活発化させている法定デジタル通貨について前編と後編に分けて特集しました。インターネットの普及により、日常生活の利便性や情報量が格段に増し、10年20年前には想像し得なかった変化が起きてます。そして、この先10年20年は、デジタル技術を活用し「お金が変わる!」可能性が高いと思います。現在トレンドになりつつある仮想通貨もあわせて、長い年月をかけて人類が積み上げてきた貨幣史の過渡期に差し掛かっているといえるでしょう。
まだまだ公的機関含めて定義が曖昧でありますが、今回特集しました法定デジタル通貨の位置づけを本連載のまとめとして以下に参考として掲載します。